講演をさらに良いものにするには?

こんにちは。数学カフェの根上です。
数学カフェは、2015年3月より誰もが最先端の数学に触れられる場を作ろうと活動しています。

運営改善のため、勉強しながら記事をまとめています。

本日のテーマは、

講演をさらに良いものにするには?

です。

学術誌 科学技術コミュニケーションの記事の中から、

一般向け解説に必要な要素や理解してもらえる記事を書く方法を考察した寄稿

わかりやすさと正確さの間(はざま)で
~2016年ノーベル物理学賞解説記事をめぐる科学コミュニケーション~
内村 直之
Japanese Journal of Science Communication, No.20(2017)

を取り上げ、数学カフェに活かす方法を考えたいと思います。

内村氏の寄稿より

説明に必要な要素には

①それは一体何か、どういう現象なのか、定義があるとしたらどういうものか。
②それはどうして成立したのか。歴史的な因果関係はどうだったか。
③それは、世界の中で・歴史的背景の中でどういう位置にあるのか・どういう価値を持つのか。
④それは未来にどう影響するか。

などが挙げられるそうです。

わかりやすさと正確さを両立させる解説を作るには

・ひとつは専門家にわかりやすい記事を書く努力をしてもらう
・紙幅の制限が事実上ないWebというメディアを利用して,時間をかけてたっぷり と長い解説を作る
・いくつかのレベルに分けて作ってもよいが、どのレベルでもコンセプトや視点は揃える

というアプローチがあるそうです。

数学カフェで取り組めていること・そうでないこと

上記のように説明に必要な要素を俯瞰してみると、
数学カフェは①についてはかなり詳しく取り扱っていて達成できていると自負します。
予備知識の足りない点を予習会・復習会で補う!という形態は
長期的に数式に怯まない人の人口を増やす、という上記とは別のアプローチでもあると思いました。

他方、②〜④についてはあまり時間を割けていません。

せっかく講演者ご本人の研究の話をしていただくのだから、
どのようにして成立したかという研究遂行上の苦労話もお話していただくと楽しいかもしれませんね。
(共同研究に至ったときのことや、アイデアを思いついたときの状況、上手く行かなかったアイデアなどなど。)

そのような “ドラマ” を語る意義は、人情的な共感を引き起こすというものだけでなく
研究における試行錯誤の価値を人に伝える意義もあると思います。

様々な論理的批判や検証に耐えうるものだけが、(その時点まで)正しい理論として評価されるわけですが
その過程には、様々な「上手く行かなかったアイデア」も数多存在します。

そして、その上手く行かなかった試みは決して無駄なものではなく、上手く行かないことを明らかにする営みであったとも言えます。
数ある試みの中からある確率でうまくいく理論が見いだせるものとすれば
研究者による上手く行かないことを明らかにする試みも非常に重要なものであり
研究者による試行錯誤を伝えることは、その重要性を伝えることでもあるなと思います。

たとえば物理学の名著であるファインマン物理学(量子力学)には次のような一節があります。

ハイゼンベルグは、仮に運動量と位置の正確な同時測定が可能であるとすれば、量子力学はつぶれてしまうことを認めている。そこで、腰をすえてその同時測定をやる方法を何とか考え出そうとした人が沢山いたのだが、誰もーーそれが壁板であろうと、電子であろうと、玉突きの玉であろうと、その他何であろうとーーその位置と運動量を同時に測定する方法を考え出すことはできなかった。量子力学は危うい際どい橋を渡しながら、なお現在でも正しい理論として、その存在を保ちつづけているのである。

たとえば上で引用したファインマンの文章からは、その上手く行かない試みによっても、正しさが(ある程度)保証されている面があるのだと知ることができます。
(ファインマン物理学は仮説を立てるに至る考えも丁寧に書かれているので非常に面白いです。)

数学カフェの講演も、今後こうした点も加えてみると、より味わえて、さらに研究の意義を伝えられるものになるかもしれません。
引き続き科学コミュニケーションについて勉強を深めていこうと思います…!

読んで頂きありがとうございました。

2 COMMENTS

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です