こんにちは。数学カフェの根上です。
数学カフェは2015年の3月より、誰もが最先端の数学に触れられる機会を提供しています。
さて、今日は、
– NPO法人の意義は?
– 数学カフェのNPO法人化で社会にはどんな可能性が広がりそう?
ということについて考えてみたいと思います。
NPO法人の定義は社会の抱える課題に応じて決定されてきた
まずはじめに、NPO法人について簡単にお話します。
NPO法人とは、ボランティア活動をはじめとする市民の自由な社会貢献活動を行う法人のことです。
資金獲得のための事業を行うことは出来るのですが、営利活動を目的とせず、公共性ある活動を行います。
NPOは、英語の Non-Profit Organization の略です。
内閣府の「NPOの評価の歴史と現状」という資料 [1] などでもよく用いられるNPO法人の定義は
①非営利(nonprofit) 事業によって得た収益を関係者に分配しないこと
②非政府(nongovernmental) 政府ではないこと
③組織性(formal) 組織の形態をとっていること
④自己統治性(self-governing) 自律的運営を行っていること
⑤自発的結社性(voluntary) 自発的な参加であること
とされています。
関係者に分配しない、とは、収益が多く出たときに株主への配当や社員へのボーナスなどの形で利益を還元しないことを意味します。
こちらの定義は、正確には、ジョンズ・ホプキンス大学の非営利セクター国際比較プロジェクト (The Johns Hopkins Comparative Nonprofit Sector)
の資料 DEFINING THE NONPROFIT SECTOR: THE UNITED STATES [2] p.22-26に述べられているものです。
この資料を見てみますと、アメリカのNPO法人の定義は概念的に決まるというよりも歴史的に決定されてきたとあります(p. 22)。
NPO法人の目的は社会問題の解決にありますので、その時々の社会の課題に合わせて形態が変化・改善されていくのは自然なことだと思います。
日本のNPO法も実態に合わせて試行錯誤がなされている最中だそうです。[3]
アメリカではNPO法人への就職は社会的にも高く認知されており、専門的にも価値のある活動を行っている
経営の父として知られるピーター・ドラッカーは
ボランティア活動が根付き始めた1950年代から非営利法人の経営に関わり始め
その著書「非営利組織の経営 [4]」の中で
日本人が職場をコミュニティにしているように、アメリカ人は非営利組織をコミュニティにしている。しかも、非営利組織はアメリカ人にとって自己実現の場ともなっている。(日本版へのまえがきより)
非営利組織は、人を変えたとき役割を果たす。非営利組織が生み出すものは、治癒した患者、学ぶ生徒、自立した成人、すなわち変革された人の人生である。(まえがきより)
と述べています。
この「人に対する変革」「家族・職場以外のコミュニティ」としての役割は、上記のNPO法人の重要な意義です。
上で述べられている通り、アメリカではNPO法人で働くことは既によく認知されており
アメリカでは大学生の就職人気ランキング上位にNPO法人が入ることも多々あります。
たとえば、2020年のアメリカの大学生の就職人気ランキング [5] を見ると
自然科学専攻 (Natural Sciences) の人気ランキング10位までのうち
1位 Mayo Clinic
4位 Doctors without Borders (NGOはNPOに含まれるとされている)
5位 American Cancer Society
がNPO法人です。
メイヨー・クリニック:1863年、南北戦争で傷ついた兵士たちを治療する施設をミネソタ州のロチェスター市につくったことから始まる。多くの科の医師、医療技術者の総合した意見を患者の管理に活用することを最大の目標とする。
国境なき医師団:1971年にフランスの医師とジャーナリストのグループによって作られた非政府組織で、世界最大の国際的緊急医療団体
アメリカがん協会:1913年に設立されたアメリカ合衆国の非営利団体。 情報提供、患者支援、がんに関する調査研究の3つを活動の柱とし、全米3400か所に支部を有している。
いずれも、医薬・バイオ系の方であれば必ず耳にしたことがあるような非常によい研究・活動が行われている組織です。
2位の National Institute of Health (NIH) も、製薬企業やNPO法人と創薬を加速するパートナーシップ
Accelerating Medicines Partnership (AMP) [6]
を結んでいます。
Humanities/Liberal Arts/Education 専攻だと、2020年にはランクインしていませんが、
2017年にランキング10位に Teach for America [7] というNPO法人が入っていました。
(Teach for America は全米で最も優秀で情熱のある人材を、2年間教師として厳しい条件にある学校に派遣をする」というプログラムです。)
※2013年には Teach for America はランキング5位であったことが [3, 8] に掲載されています。
ランキングが高いから働こう、という人とはボランティア活動は必ずしもフィットしないようにも思えますが
それだけ多くの人に価値が認識されているということでもありますね。
このあたりはファンドレイジングも合わせてと上手くバランス取っているんだろうな…今後もっと他国のケースも調べてみたいです。
日本におけるNPO法は発展の途上であるが、NPO法の制定もあり活動が盛んになっている
こども食堂などの活動で、NPO法人という言葉を最近よく目にされる方も増えてきたのではないでしょうか?
実際日本におけるNPO法人の数は増加傾向にあります。
・広く一般から支持を受けている
・その活動や組織運営が適正におこなわれている
・より多くの情報公開が行われている
と言う条件を満たした認定NPO法人の数は
平成23年3月末の198件から令和2年1月末1142件に急増しています。
認証・認定数の遷移及び県別認証・認定数 [9]
日本におけるNPO法の歴史はまだまだ浅いのですが、
現在も法律を改善しながら社会貢献の仕組みを広げようとしているところだそうです。
日本のNPO法制定に関する議論は
1995年の阪神・淡路大震災時に活動された沢山のボランティアさんたちを上手く取りまとめることが出来なかった反省から始まります。
ボランティアによる団体が直接契約の主体となれる法人を作れるようにするべきという議論が活発になり
1998年にNPO法が成立しました。
NPO法の成立当初は「ボランティアは有償であるべきか、無償であるべきか」という議論もあったそうですが
アメリカ・イギリスの非営利法人団体の職員が有償で働くという情報が入るにつれ
現在は、有償な活動も行われていることが認められるようになってきました。
(日本でもNPO法人の求人を見かけることがよくありますね。)
こうした情報拡散にも後押しされ、状況に合わせた法律の改定が行われています。
(変更に対応するのも結構大変ではありますが、それだけ改善が進んでいるのだと前向きに捉えようということで。)
内閣府NPOホームページ 特定非営利活動促進法(NPO法)のこれまでの経緯 [10]
法の成立は90年代ですが、
先のドラッカーの著書 [4] の日本版まえがきには
最古の非営利組織は日本にある。日本の寺は自治的だった。もちろん非営利だった。(中略)
ボランティアが運営する非営利組織は日本にもある。その1つが学校のPTAである。私の印象では、日本のPTAの法が、本家アメリカのPTAよりも活発であって重要な役割を果たしている。
とあります。(日本の寺はもともと多分に政治的な思惑があって建てられたものと私は認識していますが…要出典)
日本におけるPTA活動はよくやりがい搾取的な文脈で語られることもありますが、
非営利活動にもマネジメントの視点が採り入れられるべきという経営のプロの知見があるという認知が進めば、
マネジメントの手法を採り入れてさらに良いものになるかもしれませんね。
公共性を保ちつつも、行政よりもNPOの方が初動が早く動ける、すなわち、時代の変化に素早く合わせた企画ができる可能性があり
試行錯誤を増やすことによって様々なノウハウを貯めることが出来る可能性がありそうです。
では数学カフェは…?
まだまだ(特に数学の分野では)認知度の低いNPO法人ですが先駆者もいらっしゃいます。
NPO法人数学月間の会 : http://sgk2005.saloon.jp/
特にこれからコロナ禍を通じてより多くの支援が必要になることが想定され、
民間の団体によるボランティア活動の必要性が高まると予想されます。
数学カフェの運営メンバーには、
数学を学ぶ上での様々な障壁を取り除き、社会に数学をする文化を広めようとする方たちが沢山います。
もともと数学カフェが法人化をするきっかけになったのがすうがくぶんか社さまからのご寄付で、
数学の勉強会が東京に集中している状況を変えたい!という声に対し賛同して頂いたものです。
数学カフェは数学者の方々や企業研究者の方々、その他様々な方にご協力いただいており
それぞれ皆さん高い専門性やスキル、何より、学びたいと思ったときに数学を学べる場所づくりに対する意欲をお持ちです。
その方たちの持つ力を最大限に活かし、(マネジメントも勉強しつつ)
数学者はじめ数学に関わる人達の(有償・無償の)ボランティア活動が
もっと社会に広がるようにしたいなと考えています。
特にこれまで、修論のテーマが見つかった、数学の勉強を継続するようになった、勉強・研究する仲間が見つかったという声がありますので
人生を変える学習の場であり続けたいと思います。
また、出来ることは恐らく直接的な支援に留まりません。
NPO法人の定義が歴史的に決定されてきたことや、
法整備も常に状況に応じて変化していることから、
数学カフェの活動を通じて得た知見を日本のおけるNPO法人の位置づけを更に良いものに変えていけるかもしれません。
(夢は大きいですが、念頭に置きながら活動すれば、発見も増えると期待します。
またこれも書き始めると長くなってしまうので別の機会に…。)
そして、これまでの数学カフェの運営にはある程度のゆるやかさがありました。
Twitterのハンドルネームを用いた匿名講演を可としたり、
色々なチャレンジ(講演の無茶振りと言われたりもしましたが。)を行ったり
実施形態も6年の間に様々変化しました。
そうした緩やかさによって変化を生み出せるという民間団体のよさも踏まえつつ、今後の活動をしていきたいです。
今日は十分書ききれませんでしたが、
また別の機会に
日本におけるNPO法人の雇用の現状
NPO法人活動にまつわる諸課題
(本来行政が行うべき支援を民間に任せてしまうという問題もあります。)
参考にしたい法人のご紹介
など、書かせていただきたいと思います。
長くなりましたが、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
参考文献
[1] 平成13年度 NPO活動の発展のため多様な評価システムの形成に向けて第3章 NPOの評価の歴史と現状 (H13, 内閣府NPOほーむぺ)
https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/h13a-3-1.pdf [2] DEFINING THE NONPROFIT SECTOR: THE UNITED STATES,
Lester M. Salamon, The Johns Hopkins Comparative Nonprofit Sector Proiect, (1996)
http://ccss.jhu.edu/wp-content/uploads/downloads/2011/09/USA_CNP_WP18_1996.pdf [3] NPOの教科書 初歩的な疑問から答える 「非営利」なのに給与はどうするの?
乙武洋匡、佐藤大吾、日経BP社、(2015)
https://shop.nikkeibp.co.jp/front/commodity/0000/238520/ [4] 非営利組織の経営
P. F. ドラッカー、上田惇生(訳)、ダイヤモンド社、(2017)
https://www.diamond.co.jp/book/9784478307052.html [5] Universum’s Most Attractive Employers rankings, United States of America, (2020)
https://universumglobal.com/rankings/united-states-of-america/2020/ [6] Accelerating Medicines Partnership (AMP) [6] https://www.niams.nih.gov/grants-funding/funded-research/accelerating-medicines [7] Teach For All について
Teach For Japan、Teach for America に関する日本語の資料
https://teachforjapan.org/teachforall/ [8] 平成25年度千葉県職員短期海外研修 社会貢献活動の参考モデルの調査について
H26、千葉県
https://www.pref.chiba.lg.jp/kkbunka/npo/kaigai/documents/zentai.pdf [9] 認証・認定数の遷移及び県別認証・認定数
内閣NPOホームページ
https://www.npo-homepage.go.jp/about/toukei-info/ninshou-seni [10] 特定非営利活動促進法(NPO法)のこれまでの経緯
内閣NPOホームページ
https://www.npo-homepage.go.jp/about/seidokaisei-keii/sokushinhou-koremade
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