第37回数学カフェを実施しました

2023年5月14日に第37回数学カフェを開催しました!

今回のテーマは「生態系・多様性の数理生物学」です。

我々の身近にある生態系・生物の振る舞いといったものにも数学が隠れています。物理と数学の関係は多くの人が関連の深さをイメージしやすいと思います。しかし、化学や生物といった分野と数学のつながりは、(実際の関連の深さほどには)一般的なイメージとして離れたものになっているのではないでしょうか。

生物系の人にとってはそこで用いられている分析や解析の背景にある数理科学を知ることで、より深い理解につながります。しかし現状として、高校のカリキュラムで生物を選択した人にとっては、専門教育に到達するまでの間で、数学に触れる回数が化学や物理学などを専門にする人と比べると少なくなりがちです。

一方で、数学や物理を専門とする人は高校時代に生物選択者であることが少なくなっています。数学系の人にとっては、生命現象や生態系動態を記述する数学から、数学の学びや研究を行う上で新しい景色が見えるようになるかもしれません。

こういった垣根を越え、学際融合的な分野を知ることで、新たな研究分野の知識を得られるだけではなく、それまでの自分の専門知識を別の視点から捉えられることが期待できます。今回扱うテーマは「生態系・多様性」ですが、生物学の他の分野あるいは化学にも適用可能な知識が出てくるかもしれません。

本講演に先立ち、生物・数学の基礎知識を簡潔におさらいする予習会(高校レベルからのスタート)も実施する予定です。

  • 数学と生物学の境界領域とはどんなものなのか?と思っている方
  • 生物学を専門としていて、これから数学を活用していきたいと思っている方
  • 生態学に関心がある方

というメインターゲットの方々だけではなく、「多様な」背景を持つ方のご参加をお待ちしています。ぜひご参加くださいませ。

講演①:「生態系は巨大な電気回路? 電子で繋がる微生物ネットワークとそのエネルギー利用戦略」

地球表層の大きなエネルギー入力は光です。そして、 光合成生物が光を電子の流れに変換し、偏在させることで、 私たち人間のような好気呼吸生物のエネルギー輸送を支えています 。一方で、 光合成生物誕生以前においても、 地球化学反応が電子の流れを生み、 原核生物の生態系のエネルギー輸送を支えてきました。 実は電子は生態系におけるエネルギー通貨の役割を担っており、 特に微生物は多数の反応を介して電子を輸送する中で、 互いに協力関係を結んでいます。本発表では、 電子輸送を生み出す酸化還元反応群とそれらの反応を駆動する微生 物個体群動態を結合したEco-Redox modelのシミュレーション結果に基づき、 微生物群集が電子輸送を介して群集全体で巧みにエネルギー利用効 率を上昇していることを紹介します。

講演者:瀬戸繭美(奈良女子大学)

ご専門
生物地球化学、数理生物学、生体エネルギー論

略歴:HP
奈良女子大学 助教。九州大学大学院にて博士号(理学)取得。愛媛大学、国立環境研究所を経て現職。

講演②:数理モデルと統計モデルを結ぶ「 空間生物多様性の帰無モデル解析」

「生物集団の多様性」は、 生物学者が最も熱心に取り組んでいる研究です。たとえば、 地域ごとに見られる景観や食べられる魚の種類が違っていて、 つまり空間的に多様であるおかげで、 旅行というレクリエーションの楽しみを享受することが可能ですし 、そもそも生物が多様であることが、 物質循環などの生態系の機能を可能にしています。では、「 多様である」というのを、我々はどうやって数値化・定式化し、 どうやって予測すればよいのでしょうか?今回の発表では、 空間的多様性における重要な概念である「ベータ多様性」 について紹介します。そして、 もっとも節約的な仮定のもとでベータ多様性の確率分布を計算する ための「確率母関数」という方法と、 より発展的な計算を行うための線形代数の方法を紹介します。

講演者:入谷亮介(理化学研究所・数理創造プログラム)

ご専門
数理生物学、確率論、力学系、ゲーム理論。

略歴:HP
理化学研究所・数理創造プログラム 上級研究員。2016年に九州大学大学院・ システム生命科学府にて博士(理学)取得。スイス・フランス・ アメリカといった国で研究を経験した後、 2019年3月より現所属・研究員、2023年4月より同・ 上級研究員。
趣味は、サッカー・フォント・読書・アニメ・韓ドラ・ 数学の勉強。生き物と数学が好き。分担著書に、 『数理の窓から世界を読みとく – 素数・AI・生 物・宇宙をつなぐ』(岩波ジュニア文庫・岩波書店)、『 寄生虫進化生態学』(共同翻訳;共立出版)、『 植物の行動生態学〜感じて、伝えて、記憶し、応答する植物たち〜 』(文一総合出版)がある。研究者になった経緯は、『 夢中に楽しむ数学と生物学』(数理女子)に掲載。

スケジュール(予定)

10:00~10:15: 受付
10:15~10:30: 主旨説明
10:30~11:15 講演①前半
11:25~12:15 講演①後半
12:25~13:00: 講演①ディスカッションタイム
13:00~13:45: 昼食休憩
13:45~14:30: 講演②前半
14:40~15:30: 講演②後半
15:40~16:15: 講演②ディスカッションタイム
16:15~16:45 フリータイム
16:45~17:00: 退場

参考文献:(順次追記予定)

群集生態学の観点から

シリーズ群集生態学
大串隆之、難波利幸、近藤倫生(編集)

本講演の会場は新型コロナウイルスの感染対策のため、 東京海洋大学の規定に従い、数学カフェスタッフ・ 講師の人数を鑑みて現地参加者を最大45名とさせていただきます。 オンラインでの配信も予定しているため、 遠方あるいは人数オーバーの際はそちらでのご参加をお願いいたし ます。

予習会の実施について

高校数学や高校生物のあたりから解説を行います。ぜひご参加くださいませ。

予習会①:4/30 15時から17時
・高校数学のおさらい
-指数・対数の計算
-シグマの計算
・高校生物のおさらい
-生物のエネルギー獲得形式
-生態学の基礎

予習会②③:5/7 15-17時、5/13 13-15時
数理モデリング入門
1.微分・積分の復習
2. 線形代数イントロダクション
3.微分方程式・グラフ理論
4.Pythonを使ったシミュレーション体験(ブラウザ上で動かせます)

  • 4/30:予習会#1(高校数学・生物おさらい)[募集ページ]
  • 5/7:予習会#2(微分積分と線形代数)[募集ページ]
  • 5/13:予習会#3(微分方程式とシミュレーション)[募集ページ]参加費は講師への謝金、交通費、そのた今回の講演実施にかかる諸経費に使用します。

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