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心理的安全性を高めるための取り組み

心理的安全性を高めるための取り組み

昨日、第33回数学カフェを実施しました。はじめのごあいさつとして、参加者・講演者の心理的安全性を高めるための取り組みをご紹介しました。発言のキツさなどによって辛さを感じた人が、個人情報を守りながら意見を伝えられる仕組みを作ることを目的として、SOS担当を2人置くことにしました。

数学カフェは、関わる人達の心理的安全を非常に大切に考えており、この機会にHPにも背景をご説明させて頂きます。

我々が心理的安全性の確保が重要であると考える理由は2つあります。

  1. 自由闊達な議論を行い、学問そのものに集中できる環境を作ること
  2. 個人の尊厳を守ること

1. 自由闊達な議論を行い、学問そのものに集中できる環境を作ること

筆者は修士課程まで薬学部に在籍しており、修士課程の途中から数学を勉強し始めました。博士課程で在籍していたのは数学者・工学者・医学系の研究者が一緒になって研究をする場でした。互いの領域の常識・専門知・文化を丁寧に理解し尊重しながら議論を進めていく難しさに直面しましたが刺激的な環境でした。このような異分野間の交流によりユニークな研究が生まれた例として、たとえばトポロジカルデータアナリシスをウイルスの進化の解明に活かす研究 [1] をしたコロンビア大学の Rabadan Lab があります。数学・物理専攻の人たちで構成されるラボですがコロンビア大学の医学部の建物内にあり、バイオの研究者とコンタクトが取りやすいそうです。

数学カフェが数学科とは異なるのは、多様な人が参加しているということです。この違いを最大限活かすことができれば、数学と他分野のコラボレーションが生まれるかもしれません。すでに数学カフェのようなカジュアルなつながりから共同研究の仲間を見つけた、という声もあります。また、2016年のサイエンスアゴラでは、数学者三浦真人さんの呼びかけでエンジニアはじめ多数の人が協力して研究成果を市民に伝える取り組みも行われました。

創造性ある自由闊達な議論が行えるようになるためには、人の物理的な近さだけではなく安心して意見を述べられる空気があることが重要です。近年では心理的安全性がチームの生産性を高めるという知見が得られています[2]。特に、ハラスメントがあるかもしれないと不安な状況では発表もしにくいですし、交流にもためらいが生まれます。これは学習する機会を大いに損なうもので、改善すべきです。今後も、カジュアルでありながら安心できる雰囲気の中でネットワークが広がるといいなと思います。

2. 個人の尊厳を守ること

 

自由闊達な議論はとてもよいことですが、さらにその根本には個人の尊厳を守るという基本的な原則があります。

数学は厳密な学問であるため、指摘が厳しくなりやすいです。ひとつの主張が指す言葉の意味が人によって異なる※1ことがあってはならず、細部まで妥協を許さず指摘が続くということも頻繁に起こります。日常生活において数学ほどの厳密さで物事を考える場面はなかなかないため、数学的思考の獲得には一定の意識的な訓練を要します。

数学に限らず、難解な物事は、その場ですぐに咀嚼・理解できず、時間・経験を要することがありえます。人生の早い段階で数学的思考の訓練に生涯を捧げると誓った人もいれば、生活の中でささやかながら楽しみたいという人もいて、個々人の人生の中で数学の訓練にかける割合はまちまちです。特に数学カフェでは学習中の人も積極的に発表の機会を得てほしいと思っています。理解に不足があったとわかることは素晴らしいことで、萎縮せず発表できるようにしたいです。数学を楽しみたいな、という思いは共通していますし、その個人のペースや大切にしたいこと、相手の専門性を尊重してやり取りをすることが重要なのだと思います。

人権の観点からも個人の尊厳を守ることは重要です。広島県が作成した人権啓発冊子「思いやりと優しさのハーモニー〜楽しく学ぼう人権のいろは〜」 [3] の中で、自由権の意義やなぜ他者の尊重が重要であるか解説されています。

あなたが生きていく上で必要としているありとあらゆるものは,あなた自身,あなたの家族や 友だちなどあなたと関わりのある人々,あなたと直接的には関わりのない,また一生出会うこともないかもしれない人々,それら日本中,世界中の数多くの人々によって生み出されているのです。
ですから,その人たちの存在がなければ,あなたの「自由」は,まさしく絵に描いた餅になってしまうというわけです。どうか,あなたの「自由」は,これら多くの人々の存在の上に成り立っているのだということを忘れないでください。

上記の資料はとても良くまとめられていますので、ぜひ御覧ください。

今回は、数学カフェが心理的安全を重要に思う理由について簡単にご紹介しました。SOS担当の狙いや具体的な取り組みについてはまた次回書かせて頂こうと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

※1 もちろん、2つの一見して異なる概念の間の類似を見出し記述することも数学の重要な営みのひとつではありますが、その際に何を捨象しているかは正確に理解・記述することが求められます。
※2 数学が好きな人を好きな人のための数学基礎知識という発表スライドの中では、日常生活と数学的思考のギャップがとてもよく説明されていると思います。


参考文献

[1] Topology of viral evolution, Joseph Minhow Chan,
https://www.pnas.org/content/110/46/18566

[2] 心理的安全性の作り方 石井 遼介著

[3] 人権啓発冊子「思いやりと優しさのハーモニー」について 広島県
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/42/1239771132110.html

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