NPO法人数学カフェ設立趣旨
情報技術が進歩する現代において、その根底を支える数理科学はますます身近で重要な存在になっています。数学の愛好者も多く求められる数理科学の素養は高まる一方、大学以降で学ぶ数学に触れるハードルは依然として高いのが現状です。
2015年3月より、数学カフェは、誰もが最先端の数学に触れられる市民に開かれた場を提供してまいりました。数学者から市民への一方向の講演に留まらず、講演を理解するための予習・復習会や、数学を応用した研究の発表会を計100回以上実施しました。専門知の習得には時間がかかります。すぐに分かることができなくても、自分の言葉で説明できたときの理解の喜びは格別です。短時間で感動を得られるサービスが増えている昨今、専門知に敬意を払い、ゆっくり丁寧に考える楽しさを伝えられる・体験できることを大切にして活動してきました。
また、これまで心理的安全が確保されたコミュニティづくりにも注力して参りました。数学は厳密な学問であるため、指摘が厳しくなることもしばしばあります。それによって萎縮してしまうと、闊達な意見交換や学習は進みません。学習の進度によって優劣をつけることなく互いを尊重し、皆が自信を持って議論し学び続けられるコミュニティづくりも非常に重要であります。
2020年3月からは、新型コロナウイルス感染症の影響により交流の機会が減り不安を覚えやすい状況であることを鑑みて、平日毎日オンライン自習室を運営しています。数学者も、算数の学び直しをされる方も、ちょっと挨拶されるだけの方も、誰でも気軽に立ち寄れる自習室です。カジュアルで親しみやすい雰囲気の中で自習習慣を身につけ、市民と数学をつなげる場所となっています。
しかしながら、これまでの活動は組織としては未熟なものであり、十分に対応しきれていない課題もあります。NPO法人という社会的信頼性の高い法人組織を作ることで更に活動を発展させ、以下の諸課題を解決する「境界のない数学コミュニティ」を目指します。
(1) 地域や家庭の事情による学習機会の格差の解消
勉強会の機会が東京に集中している状況を解消します。オンライン講演や、全国各地での講演などを実施します。
(2) 性別の違いによる参加障壁の解消
数学におけるマイノリティ、女性や様々な性自認・性指向を持つ方が安心して参加できるよう、安全配慮スタッフを置くなど適切に対処します。また、マイノリティのための集まりを実施します。
(3) 子育て・介護などの事情による参加障壁の解消
講演のアーカイブ化をはじめとした、その場にいなくても視聴でき少しずつ学習が継続できる仕組みを構築します。
(4) 国籍・言語による参加障壁の解消
日本語以外の言語による講演を行い、数理科学が関わる国際的な課題にも関心が持てるような仕組みを作ります。また、日本以外からも参加者を募り、意見交換を通じて人材の交流ができるような仕組みを構築します。また、日本語の文献が少ない研究領域に注力して講演活動を行い、分野の振興に貢献します。
(5) 健康状態・障害等による参加障壁の解消
医師とも協同し、数学を愛好する精神疾患や発達障害などを抱える人達が社会との関わりと持ち続け自信を持てるような場を提供します。
(6) 研究者たちのアウトリーチの負担の解消
近年では研究者の事務負担が大きな問題になっておりますが、数学者や周辺領域の研究者たちのアウトリーチにかかる広報や事務手続きの手間を削減します。
(7) 数学科卒業者の多様な進路の提案
数学に関するサイエンスコミュニケーションの機会やバリエーションを増やし、卒業生の多様な進路を提案します。
2021 年 3 月 31 日